突放 (とっぽう)

(2000/04/13)

 
昭和40年代頃までの道路事情がよくなかった頃の貨物輸送の主役は列車であった。
あちこちの駅の構内の片隅には、貨車が数両停車できる程度の貨物用のホームがあり、近郊で生産された生産物、製品類がここで貨車に積み込まれ出荷されていた。
瀬戸内に面する駅では島で採れたみかんを船で運び、ここから貨車積みにされて運ばれていた。
 
解結貨物と呼ばれる種別の貨物列車は、このような小さな途中駅での貨車の解結を繰り返しながら終着駅を目指し、終着駅に到着した貨車達はさらに別の列車に連結され最後の目的地を目指す。
小さな駅で数両の貨車を連結したり解放したりするときは、列車掛(貨物列車の車掌)の指示により入れ換えが行われるが、支線の分岐駅や規模の大きな拠点駅、何種類もの貨物列車を扱う操車場では入れ換え作業を行うチームがいた。
入れ換えの指揮をとる操車係、ポイントを切り替える信号係、転てつ掛、貨車の連結器の操作を行ったり、ブレーキ操作を行う構内係というメンバー構成である。
(信号係は電動式のポイントを信号所からの遠隔操作で切り換える。転てつ掛は手動で切り換えるポイントの操作をする。)
 
入れ換えには複数の線路を使って仕訳が行われることが多い。
上り、下りの方面別、連結する列車単位に貨車を組成していくのだ。
 
貨車を連結する時は機関車が仕訳線まで入り込んで行くが、仕訳線に貨車を仕訳する時には機関車が仕訳線まで入り込んで貨車を置いて来るようなことはしない。突放するのである。突放=文字通り貨車を突き放すのである。
(ブレーキ操作を行う構内係がいないような小規模の駅で列車掛の誘導で入れ換えを行う時などは、所定の位置まで機関車で運ぶことになる。)
 
貨車を連結した機関車は一旦仕訳線の分岐位置からさらに遠方に移動して行き、入れ換え作業の開始となる。
操車の指示で転てつ掛はポイントを切り替える。その後、操車係の突放の合図で機関車は貨車を押し始める。
押すといってもダラダラではなく勢い良く加速するのだ。
機関車が貨車を押し始めると、構内係は当該仕訳線に入れる貨車の区切りの位置の開放テコを操作し、自連の錠揚げを引き上げ自連が解放できる状態にする。 (自連を切ると言う)
 
ちょっとここで自動連結器(自連)の仕組みを簡単に述べると。
 
自動連結器

自動連結器は外から見える部分は胴、ナックル、錠揚げからなっている。
胴の中には錠があり、これによってナックルの開閉が制御される。
この錠を操作するのが錠揚げ。上に引き上げると胴内部の錠が解放状態になりナックルが開くようになる。
 
 
自動連結器

錠揚げは解放テコに鎖で連結されており、解放テコをひねることで錠揚げが引き上げられることになる。
機関車の前梁、テンダーなどの解放テコは写真のように端面からみて両サイドから操作できるようになっているが、
多くの貨車は解放テコが端面からみて左側サイドからのみ操作できるものがついている。
 
 
入換を始めた機関車はさらに加速を続け、操車係の「止まれ」の合図で停車する。 この時、錠揚げが引き上げられた自連のナックルが開き、自連が切られた貨車だけが惰性で走行し続けることになる。
貨車の行く手には別の構内係がいて向かってくる貨車の ブレーキのある側 を確認し、ブレーキのあるステップに飛び乗る。そして、ブレーキ操作をおこなうのである。
 
ブレーキのある側は貨車の端面に貼られた白いプレートや白く塗られた手すりが目印になる。
 
 
自連を切る構内係は地上にいて自連を切ったり、貨車のステップに乗って自連を切ったりする。貨車に乗って自連を切る時は、貨車の両数が多く、機関車がかなりの距離貨車を押す場合などである。
つまり、次に自連を切る位置に移動するために突放した貨車に乗って移動するのである。次の自連を切る位置(貨車が停止する位置)に目星をつけ、そこで貨車から飛び降りて自連を切る貨車が目前に来るの待つことになる。
目算を誤るとその位置まで全速力で走る、走る。
何しろ、構内係は一番下っ端なのだ。操車係や機関士を長く待たせてはいけないという気持ちでいっぱいの下っ端が多いのだ。
自連を切る位置など間違えた日には目も当てられない。
もう一度突放すればよい間違いならまだしも、別の線に入れる貨車が突放されてしまっていたら..
機関車は再度連結するために仕訳線に入っていかなければならない。(お小言など頂くことになる。)
 
突放による入れ換えは小刻みに前進していくもので、行ったり来たりする回数をいかに減らすかを操車係や機関士は考えている。
一番最初にどこまで貨車を移動させていくか、どの位の加速をするか、止まれの合図をいつ出すかなど操車係や機関士の経験によって入れ換えの効率の善し悪しが決まってくる。
 
ちなみに、入れ換えは「散転」と呼ばれていた。
(語源はShuntingからきたようだ。)

入れ換えにはDE10などがよく使われていた(昭和50年頃)

なお、規則上突放による入換が禁止されているものもあった。
 
 

 

動き始めて自連を切るのは・・

動き出した貨車に飛び乗ってまで自連を切らなくても、動き出す前に自連を切れば・・
 
自動連結器で連結している場合、数センチくらいの遊び(隙間)がある。
 
 
走行中

 
 
機関車がけん引している状態ではナックル同士で引っ張っている状態になっている。
また、下り勾配などに留置されている貨車はナックル同士で引っ張られた状態で停車している。
このナックル同士で引っ張りあった状態では錠揚げを引き上げるのが困難である。
一方、機関車が貨車を押し始めると片側のナックルは相手側の連結器胴を押している状態となり、錠揚げを引き上げるのが容易になる。
 
駅構内は水平に見えても多少なりとも傾斜がある。
入換中の貨車は当然ながら機関車からの空気ブレーキは繋がっておらず、下り勾配のある場所に停車している状態では自連を介して機関車にぶら下がって転動しないようになっているだけである。この状態で自連の錠揚げを引き上げていると進路構成待ちなどの状態であっても貨車が転動し始める。
 
ということで、進路構成や突放の準備ができた状態、且つ機関車が貨車を押し始めて自連のナックルが引っ張られていない状態となった時点ではじめて自連を切っても良いことになる。

間違って錠揚げを引き上げちゃったら・・

錠揚げを引き上げナックルが開いた状態となった自連は、相手方の自連と連結してナックルが閉じた時点で錠がかかり錠揚げが落ちるようになっている。
つまり、錠揚げを引き上た場合、一度ナックルを開き、そのナックルを閉じることで錠揚げが落ちる仕組み。
 
連結している相手がなくナックルを手で開ける状態なら何ら問題はない。
しかし、他の車両と連結されている状態で間違って錠揚げを引き上げると手でナックルを開くことができない・・
 
ただ、これまた自連はよくできている。
錠揚げが入る穴は下側まで貫通している。
穴の下側から指を入れるとそこから数センチのところにある錠の足の部分「錠足」に触れることができる。
この錠足を少し動かせば錠揚げは落ち、ナックルは開かなくなる。
 

合図

突放を開始するときは、操者から合図を出す。
・無線機を使用している場合は、「機関士通告。突放。」
・旗で合図するときは、赤旗、緑旗を頭上で交差させて数回急激に左右に開く
・夜間、合図等で合図するときは赤色燈を高く掲げて円形に動かす
 
これに応えて機関士は、
・同一の合図を返す。ただし、機関士は1回の短急汽笛でこれに変えることができる
 
 
ちなみに、短急汽笛2回は連結の合図である。



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