8蒸気室とシリンダ

蒸気機関車のシリンダへの蒸気の給排気を制御するピストン弁は蒸気室の中にあります。
この蒸気室はシリンダと一体の鋳物で「シリンダ体」として作られています。

シリンダ体
蒸気室はシリンダの上部に位置します。
シリンダ体の上部には脇路体(バイパス弁)を取り付ける座があります。

シリンダの下部にはシリンダ排水弁(ドレン弁)がつきます。
冷えたシリンダに蒸気を送り込むと蒸気も冷えて水に戻ります。
この水を排水しない状態でピストンを動かしていくとウォーターハンマー現象となってシリンダを破壊します。
そのためにシリンダ内の水を排水するための弁がシリンダ排水弁(ドレン弁)です。
蒸気機関車が勢いよくシリンダの下部から白い蒸気を出しているのはこのシリンダ排水弁から排出される水と蒸気です。
3つあるシリンダ排水弁のうち、真ん中のものは蒸気室の排水弁です。

シリンダ体上部からみた図
蒸気室の後ろ側(フレーム側)には蒸気管を接続するフランジと吐出口があります。
運転席の加減弁で流量を調整された蒸気は蒸気管を通って蒸気室に送り込まれます。
この蒸気管は蒸気室の後ろ側中央にあるフランジに接続されます。
一方、シリンダでピストンを動かした蒸気は同じく蒸気室を通って吐出口に導かれます。

蒸気室の前側には空気弁の座とのぞき窓があります。
のぞき窓は蒸気室ブッシュの穴をピストン弁がふさぐタイミングを確認するために使用されます。
空気弁とのぞき窓の蓋は外板の上にでていますので、おなじみの物だと思います。

脇路体(バイパス弁)、空気弁についてはまた改めて。

シリンダ体後方
シリンダ体をフレーム側からみると左図のようになっています。

蒸気管フランジ
吐出口や蒸気管のフランジなども一体で鋳込まれていますが、吐出口を取ってみると蒸気室を抱き込むように蒸気管のフランジが回りこんでいます。

蒸気室の構造
蒸気室、シリンダをカットしてみると左図のようになっています。
蒸気室は5つの部屋に区切られています。
左から、
・吐き出し口につながる部屋(この図ではわかりにくいのですが、後方の吐出口につながっています。)

・蒸気室とシリンダをつなぐ部屋

・蒸気管からの蒸気が入る部屋(中央の楕円形に見える口が蒸気管のフランジからの入り口です。)

・蒸気室とシリンダをつなぐ部屋
・吐き出し口につながる部屋
です。

蒸気室とシリンダの通路
蒸気室とシリンダをつなぐ支柱の中が蒸気の通路となっています。

蒸気室ブッシュ
蒸気室の中には蒸気室ブッシュが入ります。
蒸気室ブッシュの中をピストン弁が往復し、ひし形の穴から蒸気の出し入れを制御します。

シリンダ体と蒸気室ブッシュ
蒸気室ブッシュは一つのシリンダ体に2つセットされます。

前側給気
左図はピストン弁が前方に位置しているときの状態で、ピストン弁は蒸気室ブッシュの穴の前側(図では左側)にあります。
この状態のとき、蒸気管から蒸気室中央の部屋に送り込まれた蒸気は前方の蒸気室ブッシュの穴をとおり、シリンダに流れ込みピストンを後方に押します。
ピストン後方にあった蒸気は、後方の蒸気室ブッシュの穴から吐出口へと流れ出ます。

後側給気
左図はピストン弁が後方に位置しているときの状態で、ピストン弁は蒸気室ブッシュの穴の後側(図では右側)にあります。
この状態のとき、蒸気管から蒸気室中央の部屋に送り込まれた蒸気は後方の蒸気室ブッシュの穴をとおり、シリンダに流れ込みピストンを前方に押します。
ピストン前方にあった蒸気は、前方の蒸気室ブッシュの穴から吐出口へと流れ出ます。

シリンダ体と蒸気室ブッシュ
蒸気を2つのピストン弁の間からシリンダに給気するため内側給気と呼ばれています。
逆に、ピストン弁の外側にシリンダへ給気する蒸気があれば外側給気となります。
外側給気の場合、蒸気室と蒸気室の蓋の気密について内側給気以上に気を使う必要があります。

この図はC59型機関車のイメージです。
車両によって形態は違いますが、基本的な構造は同じです。

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7動輪の位相

蒸気機関車はシリンダ内で往復運動するピストンの力を動輪の回転運動に変えて動きます。

ピストンがシリンダの端まで移動すると、そこで折り返して逆方向に移動します。その折り返し点が死点です。

ピストンが死点にあるときにはピストン棒、主連棒(クランクピン)、車軸の中心が一直線上に並んだ状態です。

この状態で停止していると主連棒を押しても引いても車輪は回転させることができません。

自動車などのエンジンではセルモーターでクランク軸を回転させることでピストンは死点を通り越すことができますが、蒸気機関車では外部に動力がないので車輪を回すことはできません。

その死点を通り越すための工夫が動輪に位相を持たせることです。

一般に蒸気機関車は左右に2つのシリンダを持っています。

そこで、車輪のクランクピンの位置(角度)が左右でずれるように動輪が組み立てられています。

動輪の位相
一方の車輪のクランクピンが真上にあるとき、反対側の車輪のクランクピンは90゜ずれた水平の位置になるように組み立てられています。これが動輪の位相です。

片側のクランクピンが水平の位置にあるときは、そのピストンは死点にあり、そのピストンでは車輪を回転させることができませんが、もう片方のクランクピンは90゜ずれた位置、つまり真上にあります。

このときのピストンの位置は前後の死点の中間ですから十分力を発揮できます。

通常、右側の車輪のクランクピンが水平のとき、左側のクランクピンは真上になっています。

ただ、大正時代の名機9600形蒸気機関車は左側のクランクピンが水平のとき、右側のクランクピンが真上にくる左先行となっている話は左足から歩みを進める武士道機関車として有名です。

もっとも、これも意図的に設計したのではなく、図面の見間違えが発端のようで十数両製造した段階で誤りに気が付いていたようです。ただ、その後もずっとそのまま製造されつづけ770両の大所帯となっています。

C53形機関車は左右のシリンダの他に、台枠の間にももう1つシリンダがある3シリンダー機関車です。

この場合、それぞれのクランクピン、クランク軸の角度は120゜ずれています。(厳密には120゜からちょっとずれています。)

この機関車、極まれでしょうが不動となることがあったようです。

余談ですが、返りクランクの角度を反対側にずらすと・・・ムムムッ。

動輪を切断してみると・・
これも余談ですが、せっかく、動輪の図をカットしたので。

箱型輪心は内部が中空になっています。

(実物の肉厚は、この図よりさらに薄いです。)

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6返りクランク

機関車の前進、後進を切り替えるには、シリンダ内のピストンの前方、後方どちらに蒸気を給気するか決める必要があります。

給気
動輪のクランクピンが、動輪中心より下側にあるとき(左上図)は、ピストンの前方に蒸気を給気するとピストンが後方に押され、動輪は前進方向に回転します。
逆に、動輪のクランクピンが、動輪中心より上側にあるとき(左下図)は、ピストンの後方に蒸気を給気するとピストンが前方に押され、動輪は前進方向に回転します。

このため、クランクピンの位置がどこにあるのかを検知してシリンダへの給気を制御するピストン弁を動かす必要があります。

返りクランクと偏心棒
クランクピンの位置を検知して加減リンクの傾き加減を操作してピストン弁の移動方向を決めるのが返りクランク(リターンクランク)と偏心棒です。

返りクランクの軌跡
返りクランクはクランクピンに取り付けられています。
これ自身はクランクピンを中心にして回転するといったことはなく、ある角度をもってクランクピンに固定されており、クランクピンと一緒に動きます。

返りクランクの位置とピストン弁の位置左上図のようにクランクピンが真下にある状態のとき、返りクランクは偏心棒を押し、加減リンクは後ろに傾いた状態となっています。
その結果、心向き棒は前方に押され、ピストン弁も前方に移動します。

左下図のようにクランクピンが真上にある状態のとき、返りクランクは偏心棒を引っ張り、加減リンクは前に傾いた状態になっています。
その結果、心向き棒は後方に引かれ、ピストン弁も後方に移動します。
この動きによって、前後どちら側の給気ポートを開くかが変わってきます。

弁線図
蒸気機関車の図面(設計図)には、弁線図というものがあります。
これは、加減リンク、心向き棒、合併テコ、返りクランクが締め切り率を変えていったときどのような範囲で動くかといったものが書かれたものです。

ちなみに、C59形機関車の場合、弁の最大行程は148mmとなっています。
つまり、前進か後進のフルギヤにしたときのピストン弁は148mm動くということです。
また、動輪の中心からクランクピンの中心までの距離は330mmですので、ピストンはその倍の660mmのストロークを持っているということになります。

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5クロスヘッド、連結棒と動輪

ピストン棒の一端にはクロスヘッドが取り付けられています。
クロスヘッド、主連棒と動輪
クロスヘッドは、ピストンの往復運動を主連棒を介して動輪の回転運動に変えるためのものです。
主連棒は、動輪の中心からずれた場所に取り付けられているクランクピンを介して動輪を回転させます。
すべり棒は、クロスヘッドが前後に移動するときのガイドとなる役割をします。

クロスヘッド、主連棒と動輪の位置ピストンが前後に移動するときのクロスヘッド、主連棒と動輪の回転する角度は左図のようになります、

連結棒
主連棒が取り付けられる動輪は俗に主動輪とも呼び、この動輪がレールに粘着する力を利用して機関車を動かしていきます。
このとき、牽引力を増すために他の複数の動輪にも回転する力を与えています。
これが、連結棒です。
連結棒は動輪全てを繋ぐ一本の棒ではなく、それぞれの動輪間を繋ぐ複数の部品でできています。
動輪の数が3組あるC形の機関車では2本、動輪の数が4組あるD形の機関車では3本の連結棒があります。

連結棒と動輪
左図は動輪間を連結棒でつないだ状態です。

主連棒、連結棒と動輪
主連棒は連結棒の外側に取り付けられます。

動輪のバランスウエイト
動輪の中心からずれた位置にあるクランクピンに重量のある主連棒、連結棒をとりつけた状態で動輪が回転すると、当然ながらブレが生じます。
このため、クランクピンの反対側にはその重量に応じたウエイトをつけておくことが必要です、
そのウエイトがバランスウエイトと呼ばれるものです。
自動車のホイールはタイヤを組み付けた際に必要なおもりをつけますが、蒸気機関車の場合、おもり分を換算した輪心として鋳込まれています。
主動輪は連結棒の他に主連棒、返りクランクなど他の動輪にない部品が取り付けられますのでバランスウエイトも大きくなっています。

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