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蒸気機関車の仕組み(構造) – 2 – 逆転機構

蒸気機関車の運転台の左側(機関士側)には機関車の前進と後進を切り替えるための逆転ネジがあります。
この逆転ネジを回転させることで、それに連動して逆転棒が前後に動く仕組みです。

逆転機(リバー)は単純に前進と後進を切り替えるだけでなく、シリンダに蒸気を送る加減弁の開度と併せて出力を調整するためのものでもあります。

逆転機の動作の前に、ピストンの前後運動を確認しておきます。

4サイクルエンジンでは混合気の比率や着火タイミングの変更等々で回転数を変えたりしますが、給気、圧縮、燃焼、排気のどの行程でも弁の開け閉めのタイミングはタイミングベルト、ギヤ等で制御しているため一定です。
(vtecのように回転数に応じて動作する弁の数を切り替えるものもありますが、弁が開き始める、閉じ始めるといったタイミングは一定でしょう。たぶん。新しいエンジンは知りません (^^;)

蒸気機関車のピストンの移動する行程は大きく、給気、膨張(締め切り)、排気、圧縮の行程にわけられます。

 

ピストンの行程

給気

給気

(写真上) 給気行程でシリンダに蒸気が満たされ始めるとピストンが移動していきます

この図の弁はすべり弁と呼ばれるもので、実際の機関車の多くやそれを模した大型の模型機関車では弁の部分もピストンになっているピストン弁が使われています。

すべり弁は小型の模型機関車などピストン弁の加工が難しいときによく使われています。
ここでは、作図が簡単なので、すべり弁を例にしています。
実物の大型機関車で使用されているピストン弁の場合は給気や排気の場所が異なります。
蒸気室とシリンダ」のページをご覧ください。

 

膨張

膨張(締め切り)

(写真上) シリンダに蒸気を送り続ければピストンは死点まで移動しますが、蒸気を大量に使用することになります
そこで、ある程度の蒸気をシリンダに送り込んだ後、給気の弁を閉じます。
蒸気は膨張する性質を持っていますので、シリンダ内に閉じ込められた蒸気はピストンを押し続けます。
膨張(締め切り)の行程です。

 

膨張(締め切り)

(写真上) 膨張した蒸気に押されたピストンは死点に達します

 

排気

  排気

(写真上) 死点に到達したピストンは、シリンダの反対側に給気することで押されて戻ることになりますが、その際にこれまでに吸気した蒸気の排気を行うことになります
(反対側(この図では右)のシリンダは給気、膨張の行程です。)

 

圧縮

  圧縮

(写真上) 排気が終了する直前の死点前では再び弁が閉じた状態となり、排気し切れなかった蒸気が圧縮され、死点に到着するピストンの緩衝となります

この給気、排気を行う弁のタイミングを調整しているのが逆転ネジからつながる各種のリンク装置で、シリンダに送り込む蒸気の量を調整しているのが運転席にある加減弁です。

逆転機を操作して早く締め切るようにすれば、使用する蒸気の量は少なくてすみますが、発車時など力が必要なときに少ない量の蒸気をシリンダに閉じ込めても機関車が動き出すほどの力でピストンを押すほどには膨張しません。
(早く締め切るとは、給気のために弁を開いている時間を短くして、シリンダに閉じ込められた蒸気が膨張する時間を長くするということです。)

一方、締め切りのタイミングが遅いままで走行すれば蒸気の使用量はどんどん増えます。
(給気のために弁を開いている時間を長くして、多量の蒸気をシリンダに送り込むということです。蒸気の量によってピストンを動かすことで、蒸気が膨張しようとする力を利用しないまま排気することになります。)

この締め切りのタイミングはカットオフと呼ばれています。

 

逆転機を極端まで落とした状態で加減弁を開き、機関車が動き出したら動輪が1回転もしない時点でカットオフ・・
テレビやビデオなどで見かける運転風景です。

機関士によってカットオフを多用する人、加減弁での操作を多用する人などさまざまなようです。

もちろんカットオフと加減弁の開度の目安となるものがありますが、やはり目安は目安。
当然ながら実際の運転にあたっては、これから先の勾配の様子やボイラーの状態を加味しながら運転していたようです。
 
例えば、上り勾配が控えているのに蒸気圧が低かったり、水位が低いときは早めにボイラーの状態を定位にしなければなりません。
石炭を燃やすには通風が必要で、シリンダからの排気やブロアの使用が必要になります。

平坦な区間等でシリンダに供給する蒸気が少なくて排気圧が小さい、ブロアだけでは十分燃えない、といったときなどリバー50くらいの強力行とさせ、一時的には蒸気の使用量がぐっと増えるものの、石炭をどんどん燃やしてボイラーの圧力を上げるようにするときもあったとか。

もちろん、石炭の種類によっても燃え方が違ったようですし、機関車の個体によっても蒸気のあがりやすさが違ったようですから、それらも加味して。

経験にもとずく職人技の世界だと思います。
 
ミニSLの場合も実物と同様にカットオフもできます。

が、トレーラの乗客の乗り降りも多く機関車にかかる負荷は常に変動していますし、急なカーブが多かったり。

蒸気の使用量がどう変化したかなど、はっきりいってわかりません。

蒸気圧が落ちたら、とにかく石炭を燃やすしかないですから・・
今日は燃費がいいなんて考えませんし。
 
カットオフしていくとブラスト音も変わっていきますが、速度が速くなるといろいろなノイズも大きくなりますし、惰性で動く部分があるので加減弁は閉じぎみにするためブラスト音も小さくなってしまうのでカットオフによるブラスト音の変化はわかりにくいと思います。
 
負荷が大きいとブラスト音も力強く変わってきますので、お客さんをたくさん乗せてフルギヤのまま低速で走っていた方が排気音は楽しめると思います。
 
1番ゲージの機関車も5インチの機関車も運転台の上のエアーテストで加減弁を開いたまま逆転ネジの操作をして動輪の動きを眺めていると、フルギヤの位置から逆転機を引き上げていくにつれ車輪の回転速度もあがっていきますが、そのうちに徐々に回転が落ちて、中立位置では回転が止まります。それでも逆転機を回し続けると今度は車輪は逆回転となります。
面白いものです。

 

逆転機

では、逆転機の動作です。
 

D51の逆転ネジ

(写真上) 逆転ネジはその場でくるくる回転するように固定された雄ネジです。 

 

逆転ネジ

(写真上) 位置が固定された雄ネジを回転させると、その外側にある雌ネジの側が前後に移動することになります
この雌ネジについているのが逆転棒です。

 

右回りに回転させて極端までリバーを落とすと前進フルギヤ、左回りに回転させていくと後進フルギヤです。
フルギヤといっても自動車のような歯車ではありませんが。

 

 

逆転棒

(写真上) 逆転棒の先には逆転軸腕がつきます
こちらは機関車左側ですが、機関車右側のシリンダの逆転も制御するため逆転軸を介して右側のツリリンク腕につながります。

 

 

逆転軸

(写真上) 逆転軸はボイラーの下を横切るため湾曲した形になっています

 

加減リンク及び逆転軸受け

(写真上) 逆転軸は加減リンク及び逆転軸受け(C59では「加減リンク及び逆転軸受け」として一体化しています)につきます
加減リンク受けはモーションプレートと呼ばれているものです。

 

加減リンク及び逆転軸受けと中間体

 

 

加減リンク及び逆転軸受けと中間体

(写真上) 加減リンク及び逆転軸受けは主台枠の間にある中間体に取り付けられます

 

加減リンク及び逆転軸受けと中間体

加減リンク及び逆転軸受けと中間体

加減リンク及び逆転軸受けをいろいろな角度から見た図は「こちら」にあります。

 

加減リンク及び逆転軸受けと中間体 俯瞰

(写真上)レームに中間体、加減リンク及び逆転軸受け、逆転軸、逆転棒がつくと上の図のようになります

 

前後進時の位置

(写真上)
逆転ネジを右回りに回転させる

逆転棒が前方に移動する

逆転軸を中心として逆転軸腕の水平方向の腕が下方に移動する(前進位置)

 

逆転ネジを左回りに回転させる

逆転棒が後方に移動する

逆転軸を中心として逆転軸腕の水平方向の腕が上方に移動する(後進位置)

この動きが加減リンクを介して心向キ棒の動きを制御し、機関車の前進、後進を決めることになります。

中立位置

(写真上) 中立位置

前進位置

(写真上) 前進位置

後進位置

(写真上) 後進位置

 

逆転軸

(写真上) 逆転棒は運転席側(機関車の左側)にのみついています
逆転棒の前後の移動はボイラーの下を通っている逆転軸を介して機関車右側のツリリンク腕を動かし、機関車右側の加減リンク、心向キ棒を制御します。

 

C62など戦後の大型機関車ではこの逆転棒を前後させる動作を圧縮空気を利用した装置で行うものがあります。
動力式逆転機です。

 

動力式逆転機

(写真上) 動力式逆転機

 

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